「違法ではないが不適切」と五戒


舛添氏が自らの疑惑を払拭すべく調査を依頼した弁護士が、疑惑の対象となっている多くの項目について、「違法ではないが、不適切」と発表しました。違法というのは国の法律の話で、不適切というのは倫理や道徳の話です。今回の騒動を通して、法律と道徳と五戒について、考えて見ます。
 
敏腕と言われる弁護士の威信を掛けての発言ですから、家族旅行や旅行先の食事、台湾で買った支那服や落款などの土産や、神田の書店で買った趣味の本や子供の漫画本までの支出を政務費に計上することは、違法ではないようです。違法ではないのに多くの人に非難されるのは、不適切、つまり正しい人の道である道徳や、多数の人の論理である倫理に反すからです。
 
だから、法律は、道徳より低い決まり、最低限これだけ守らなければならないルールで、道徳は、良識のある人、見識のある人が守るルールで、道徳があれば、社会から良識の人と認められると言えると思います。
 
仏教には、在家のために五戒という戒があります。五戒の二番目、不偸盗戒は「盗まない」ことで、舛添氏の疑惑事項は、表面的に浅く見れば盗みではないので、この戒に触れないかもしれません。しかしそれなら、五戒に触れなくても道徳に反し、人に非難されることになります。
 
仏教は、どんな苦も生じさせない道を教えているので、そして誰にも、あるいは智者や善人から非難されない道なので、どの戒のどの項目でも、それを遵守しても道徳に反し、人に非難されるような戒はあり得ません。
 
だからこの一連の出来事を見ると、五戒の「盗まない」と項目を、ごく浅い解釈で遵守しても、道徳以下であり、善人(清信士、清信女)でも何でもない普通の人、一般庶民から非難される悪の多い人でしかないことが分かります。
 
しかしほとんどすべてのお寺のサイトや仏教のブログで、「不殺生戒。不偸盗戒。不妄語戒。不邪淫戒。不飲酒戒」「殺さない。盗まない。嘘を言わない。不倫をしない。お酒を飲まない」と教えています。
 

ターン・プッタタートは、五戒も八戒も、十戒も、二二七戒も、分け方が違うだけで、守るべき範囲はみんな同じと言われています。戒の数が多くなるほど具体的になりますが、五戒は五つしか項目がないので、一つの項目が守備する範囲は非常に広いです。だからそれぞれの項目の要旨を、しっかり把握しなければなりません。
 
ブッダが言われている不殺生戒は、「他人の体と命に危害を加えない」、不偸盗戒は、「所有者が与えていないものを取らない」。他人の財産に危害を加えない」、不妄語戒は、「他人に、言葉による害を加えない」、「他者が愛して護っている物に手を触れない」、「一切の心を酔わせるものを嗜まない」です。
 
このように解釈すれば、不正な支出も、政治活動に使用する費用は与えられていますが、個人が使用する費用ではないので、与えられていない用途になり、不偸盗戒に触れます。
 
舛添氏の答弁は、不妄語戒(嘘を言わない)には触れないかもしれませんが、終わりがない話、綺語なので、ブッダが意図された範囲の五戒には触れます。
 
また、若者のイジメは、初めの四項のどれにも当てはまるので、当然戒に触れますが、浅い解釈の五戒では、イジメは漏れてしまいます。今はやりの○○ハラスメントと言うのは、不妄語戒に触れます。
 
少し仏教の知識がある人、瞑想をしている人などが、時々「在家は五戒を守るだけで良い」と言うのを耳にします。誰もが、文字通りの五項だけと考えているので、無理はないとは思いますが、狭い意味、浅い解釈の五戒を守ったのでは、「違法ではないが不適切」つまり「不道徳」で、悪の多い凡人から一歩も前進しません。
 
まだ善人に非難されるなら、まだ仏教徒と見なせないかも知れません。自分のために戒を持すなら、目的のために戒を持すなら、従来の解釈の干乾びた五戒でなく、善人、つまり清信士、清信女である凡人になるよう、ブッダが意図された広い意味を知り、その戒の要旨を掴まなければ意味がないと思いました。