私が一過性でない慢性的な「不眠」を知ったのは、四十歳になった頃でした。しばらくの間寝つきの悪い日が続いて少しすると治るので、更年期を疑ってクリニックを受診しましたが、まだ更年期ではないと言われて帰って来ました。それからダンマを知って真面目に実践していた頃は、ほとんど不眠はありませんでした。六十歳を過ぎて体調を崩したのを境に、体調を崩す度に、日常的、恒常的に不眠が現れるようになりました。
若い頃の不眠は一時的なもので、翌日も何の影響もなく普通に過ごすことができるので、ほとんど夕立に遭うようで、何ということもありませんが、初老過ぎの不眠は慢性的で、原因は外部の物でなく、五臓の働きが弱まったことによるので簡単には解決できません。あるいは美味く付き合って行くしかないので、問題は深刻です。
最近「不眠外来」「睡眠障害」という言葉を聞くことが増えたので、現代になって増えたのかと思っていたら、プッタタート師の話では、人間が生まれた時から不眠はついて来たようです。
インドにも創世記の話があるそうで、人間や動物に関わる話は次のようです。
世界を創った神様が世界を維持するために人間を創り、寿命を三十年と定めました。次に人間の労働を助けるために牛を創り、これも寿命を三十年と決めました。すると牛が、重労働を三十年するのは辛すぎるから十年にして欲しいと懇願したので、神様は十年に減らしてやりました。それを聞いた人間は、牛が辞退した二十年を私にくださいと言い、それをもらったので、人間の寿命は五十年になりました。
次に神様は人間の財産を守わせるために犬を創りました。これも寿命は三十年です。犬は三十年間夜も寝ないで番をするのは辛すぎると言って、十年に減らしてもらいました。すると人間がそれを聞いて、犬が辞退した二十年を私にくださいと言い、神様が許可したので、人間の寿命は犬の二十年を貰って七十年になりました。
次に神様は人間を楽しませる物としてサルを創りました。これも寿命は三十年でしたが、サルも同じように二十年減らしてもらって十年になりました。そこでも人間は強欲で、サルが辞退した二十年を私にくださいと懇願したので、人の寿命は九十年になりました。
だから人間の初めの三十年間は人間自身の寿命なので見事ですが、三十歳から五十歳までの二十年は牛の寿命を貰ったので、最高に重く苦しい生活をしなければなりません。五十歳から七十歳までは犬の寿命をもらったので夜になっても眠れません。そして七十歳過ぎるとサルの寿命を貰ったので、サルように意味のないことをして(痴呆などで)周囲に笑われるという話です。
つまり、人が動物より長寿になった時から、不眠は原罪のようについて来たようです。その創世記が作られたのがいつの時代か知りませんが、そのような話を聴いた人々が納得していたなら、遥か昔の時代にも、中年を過ぎた人は長期間(二十年間)不眠に悩まされていたということでしょう。番犬から寿命をもらった話があるから不眠があるのでなく、人に不眠があるから番犬の寿命をもらった話しが創られたと考えます。
法研発行の「中医学版家庭の医学」のよると、慢性の不眠症には六つのタイプがあり、痰によるもの(痰熱擾心)、貧血によるもの(肝鬱血虚)、(心脾両虚)、体内の水分不足に関わるもの(心陰虚)、(心腎不交)、そして心胆虚佉です。つまり脾(消化吸収機能)が弱ると痰が生じ、あるいは血が不足して心や肝などを営養できなくなるので、あるいは腎機能が弱まって体内の水が不足すると心などを冷やせなくなるので、体内温度が冷えないために不眠が生じるようです。
しかし身体のことは物理的な因果だけでなくいろんな物が関連しているので、解決は簡単ではありません。季節との関連で言えば、立春、立夏、立秋、立冬の前の十八日間の土用には脾が悪くなるので、貧血(血虚)が原因の不眠になることが多く、夏は心陰虚によるもの、春は肝鬱血虚によるもの、冬は心腎不交によるものが多いかも知れません。しかし本当の原因は老化であり、老化は加速する一方なので、多少軽減する程度の解決でしかありません。
一定の年齢になると慢性不眠が生じるのは、どの動物の寿命でも手あたり次第、意地汚く長生きをしたがった最初の人間から受け継いでいる原罪かも知れません。長すぎる寿命を苦と見て、自ら辞退した動物に不眠と呼ぶ症状はないように見えるからです。